看護省力化機器を夜間看護業務に取り入れて
排泄に関する夜間看護業務の改善
神奈川県立厚木病院総看護婦長(導入当時)岡部純子
*このレポートは1993年1月の医学書院「病院」に掲載されたものを、著者及び出版社の許可を得て転載しております。
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神奈川県立病院においても看護婦不足は深刻であった.県立8病院の主管課である,県衛生部県立病院総務課と総看護婦長が中心になって,看護婦確保定着対策が論じられた.日頃実践している看護業務を多角的に見直すことになった.システムの不備、医療機器の数の不足・管理体制,マンパワーの問題等が浮き彫りにされた.
夜間勤務は看護婦にとって,避けて通れない問題である.しかし,1病棟当たり夜間2〜3人のナースでは,限界が生じていることが強調され,夜間勤務者の増員を要求した.しかし、各所での定数増を一度にはかるのは,至難の技である.そこでできるところから実施してゆくという行政の方針が示され,夜間看護業務の省力化機器の導入をはかることになつた.
平成3年3月補正予算計上のため,各県立病院から省力化機器の選定をした.当県立厚木病院では,便尿器の消毒保温庫と自動曹尿洗浄械を導入することに決定した.
今回,当院で最も排泄介助の多い整形外科病棟に焦点を当て,便尿器消毒保温庫の導入による効果について述べる.
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■病院の概況
当院は神奈川県の県央厚木市にある370床の総合病院である.診療科は13科.看護単位は9病棟,手術・中材,外来,看護教育係の12単位である.夜間看護体制は2・8体制が3単位、2.5・8体制が2単位、3・8体制が4単位である.基準看護は、8病棟が特3類,1病棟が特2類である.占床率90%(伝病除外),平均在院日数20.7日.
■尿便器消毒保温庫導入の理由
当院では,蒸気便器消毒機が使用できるのは7時から20時までである.この時間以外は薬液消毒をしなければならない.
夜間使用した便尿器の消毒をするために,ポリタンク等の容器に,各種の消毒液を作成しその中に浸けていた.ベッド上排泄患者が多い病棟では,排泄に関する業務が,深夜・準夜勤帯にかなりの比重を占め,便尿器の山と格闘していたと言っても過言ではない状況であった.使用後便尿器の水洗から消毒に至る過程を簡便かつ短縮するために当機器を導入した.
導入した病棟は,整形外科病棟他2病棟に各1台設置した.
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■尿便器消毒保温庫導入効果
◎夜間17時から8時30分までに使用した便便器の個数
4週間調査した結果.1日の最多は50個で1日平均は29.1個であった.この期間の1日平均担送患者は8.7人,護送患者は15.6人であった.平成3年度の年間平均では,当病棟の1日平均担送患者11.5人,護送患者14.3人であった.
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◎便尿器の洗浄消毒法と所要時間
(従来) 夜間は蒸気が止まってしまうため.図1に示すような手順で処理をしていた.
1時間毎の巡視時,便尿器を消毒液から引き上げ乾燥をさせていた.
便尿器の後始末の所要時間は,?水洗から消毒液につける (平均1分).?消毒液から上げて水切りをし乾燥のため台にならべる (平均2分),?乾燥したものを所定の場所に収納または保温庫に入れる (平均2分),で1個の所要時同は平均5分を要した.
便尿器消毒液の作成は.平日日中は病棟作業員(補助者)の業務.夜間は早出および遅出の看護婦、休日はすべて看護婦が担当していた.2個のポリタンクと3個の大バケツに,表2に示すような消毒液の種類および量を作成していた.廃液にも手間を要し,早出・遅出勤務看護婦は、朝晩30分は消毒液の交換・作成のため汚物室にこもって業務をしていた.
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〈導入後〉 使用後尿便器は、図2のように水洗し,水滴がついた状態で使尿器消毒保温庫に入れて良いので.手順は単純化し大幅に時間短縮がはかられた.1個当たりの後始末の所要時間は40也秒となった.
空気中の酸素をとり入れ発生したオゾンガスおよび温風は,ファンで強制的に庫内を環流し.殺菌・保温・乾換・消臭が同時にできる.
オゾンガスによる消毒効果は,表1に示すとおりであった.検査結果から30分間消毒すればよいと判断した.乾操にも30分間を要するので,使用時は水滴がついていないことを目安にした.便尿器を入れる口と出口を区別し,消毒・乾燥・加温がされたものを患者の要求に応じてすみやかに提供することができるようになった.
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便尿器消毒保温庫のサイズは,縦125cm,横100cm,奥行48cmでキャスターがついている.
庫内は6段あり,尿器は1段に9個、和式差し込み便器が1段に4個,プラスチック安楽便器が1段に4個収容できる.当病棟では,便器クッションやカバー,尿コップ,メスシリンダー等も入れて消毒乾燥している.4段に便尿器を入れて回転させているが数の不足はない.
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表1. オゾンガスの消毒効果 |
消毒時間 |
種 |
検体採取場所 |
大腸菌 |
録膿菌 |
MRSA |
15分 |
尿器 |
入口の内側 |
(−) |
(−)
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少数 |
底の内側 |
(−)
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(−)
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(−)
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便器 |
殿部接触部 |
(−)
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(−)
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少数 |
底の内側 |
(−) |
(+) |
(+) |
30分 |
尿器 |
入口の内側
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(−)
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(−)
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(−)
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底の内側
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(−)
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(−)
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(−)
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便器 |
殿部接触部
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(−)
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(−)
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少数 |
底の内側 |
(−) |
(+) |
(−) |
1時間 |
尿器 |
入口の内側
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(−)
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(−)
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(−)
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底の内側
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(−)
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(−)
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(−)
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便器 |
殿部接触部
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(−)
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(−)
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(−)
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底の内側
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(−)
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(−)
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少数 |
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◎便尿器消毒液の薬剤量と価格
〈従来〉 便器のクッションおよぴカバー消毒用の100倍ヒビテン液15リットルを1日3回各シフトで作成.プラスチック便・尿器消毒用の300倍次亜塩素酸ソーダ液40リットルを1日2回作成.ステンレス便器消毒用の100倍逆性石けん液20リットルを1日1回作成していた.
薬剤使用量と価格については表2に示すとおりである.価格は納入価格で算出したが,1日1427円1年間では520,855円となる.導入機器の構入価格に相当する.
〈導入後〉 消毒液は作成していないので,消毒用薬剤は不要となり,経費節減となった.また.ポリタンク等が片づけられ汚物室がすっきりした.
便尿器消毒保温庫のランニングコストは,電気代だけである.従来から便尿器加温機は使用していたので,それに代わるものとして導入したので電気使用料は従来と変わらない.
オゾンガスは空気中の酸素をとり入れ,オゾンガスを発生させるのでランニングコストは不要である.
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表2. 便尿器消毒液の使用薬剤の量と価格(1日当たり)
薬剤 |
使用濃度 |
作成消毒液量 |
薬剤使用量 |
薬価 |
5%ヒビテン |
100倍 |
15000mlx3/日(45リットル)
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150x3=450ml
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1107円 |
5%次亜塩素酸ソーダ |
300倍 |
40000mlx2/日(80リットル)
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130x2=260ml
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104円 |
10%逆性石けん |
100倍 |
20000mlx1/日(20リットル)
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200x1=200ml
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216円 |
計 |
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145リットル |
910ml |
1427円 |
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■おわりに
夜間看護省力化機器として導入した便尿器消毒保温庫は,便尿器の後始末の手順と時間を大幅に短縮した.準夜・遅出深夜・早出勤務者が夜間帯16時間の中で延ベ2時間15分を便尿器の洗浄・消毒等に費していたところを.19分24秒まで減らすことができた.
消毒の確実性について,従来の方法ではやや不安があったが.機器の導入でそれも解消された.消毒済の清潔な便尿器を患者に提供できる安心感がもてたのはよかった.
機器の温度が41℃に設定されているため,便尿器の暖まり具合がよく,患者からも好評であった.
勤務者の反応として,「汚物室にこもって仕事している」という思いから.「汚物室がきれいになって見栄えがする」という声になり.心理的効果もあった.何とかして欲しい看護周辺業務の1つであったが,自分達の声が聞き届けられて業務改善がはかられ,さらに良い看護を目指して頑張ろうという気持になれたのは大きな収穫だった.
早出・遅出業務にも余裕ができ,直接患者の看護に携わる時間が多く持てるようになった.また病棟作業員も合わせて業務の見直しをし業務整理をすることができた.
ランニングコスト面からも,機器の導入が有利であることは明白である.よいと分かっていても予算の区分が違うため,即購入は困難なものがある.しかし機器の導入効果の大きいことを示し,平成4年度には.もう1病棟に1台購入することができ喜んでいる.
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おかべじゅんこ
神奈川県立厚木病院総看護婦長(機器導入当時)
243 神奈川県厚木市水引1−16−36
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